【Vol.6】今「No」って言ったのに! 何もしていないのに何故「Yes」になるの?~コミュニケーションにおける”陰極まれば陽となる”とは~

こんにちは。大人のADHD・HSP専門コーチの原 登志文(はら としふみ)です。
「コーチング」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。多くの人は、大企業の経営者やプロアスリートが、何か大きな目標を達成するために受けるものだと思っているかもしれません。
しかし、それは大きな誤解です。コーチングとは、特別な人だけのものではありません。
日々の生活に特性ゆえの不便さを感じていたり、「本来の自分らしい生き方ができていない。」と漠然とした不安や不満を抱えていたりする人が、自分の意図する未来へシフトするためのものなのです。
今回は、私が会社員時代に体験した、コミュニケーションの本質を表すあるエピソードをお伝えします。
第1章:違いを創るのに、大きいも小さいもない

私たちが目指すのは、「世間を驚かせるような偉大な成功」ではありません。ごく普通の生活の中から、自分らしく「違い(変化)」を創り出すことです。
そして、その違いを創るのに、大きいも小さいもないのです。
ADHDやHSPの特性を持つ方の多くは、「もっとちゃんとしなければならない。」「周りの期待に応えなければならない。」という義務感に縛られ、自分の本当のやりたいこと(本音)が見えなくなっています。潜在的な悩みを抱えながらも、そもそも、人に相談したり、話したりするようなこととは、露とも思っていない人が多いのではないでしょうか。
しかし、自分の人生に違いを創るスタートラインは、いつだって「日常の小さな違和感やモヤモヤ」の中にあります。大きな目標など、最初からなくていいのです。
第2章:エピソード:すべての「No」を受け取った先にあったもの

私が会社員時代、他部署の方と研修スライド作成の打ち合わせをしたときの話です。
スライドの作成者は、ある製品の担当者でした。少し気難しい方のようで、私たちのグループに迷惑をかけないよう配慮して、相手部署のマネージャーも同席していました。
会議は1時間の予定です。事前に十数枚の製品解説スライドが用意されており、まずは製品担当者から説明を受けました。その後、こちらの部署の観点から、数点の修正依頼をすることにしたのです。
まず私は、「表紙に製品担当者の顔写真を貼ってください。聴いている人が親近感を持ちますので。」と提案しました。するとその方は、「嫌です。顔写真は貼りたくありません。そもそも製品解説するのに担当者の写真なんか関係ありません。」ときっぱりと否定されました。
私は「そうですか。」と言って、心の中でその拒否をそのまま受け取りました。
次に、「この部分は長いので、もう少しシンプルに、例えば箇条書きなどになっていると分かりやすいと思います。」と提案しました。
相手は、「この部分は解説の形が分かりやすいから、わざわざこうしているのです。箇条書きにしたら、余計に分かりにくくなります。」と言い、そのあと、延々と自分がそうしている根拠を過去からの流れを含めて話し続けられました。
私はそれも受け取りながら、「そうなんですね。それでは、次は……。」と、こちらからの修正提案を5箇所ほど続けていきました。そのたびに相手は、「嫌です。」「ダメです。」「変えません。」と、すべての提案に対し、自分の想いとともに延々と語りながら拒否されたのです。
私はその度、反論も説得もせず、その拒否とその言い訳とも聞こえるような相手の想いをただ受け取りながら打ち合わせを進めました。相手側のマネージャーは、申し訳なさそうな表情を浮かべています。
終わりの時間が近づいてきたので、私は「それでは、時間も来ましたので、これで終了でよろしいでしょうか。」と言いました。
その時です。製品担当者が声を上げました。
「ちょっと待ってください!それでは、私は、写真を添付して、説明部分を箇条書きに変更して、〇〇と××と△△のスライドを修正したらいいのですね。」
相手のマネージャーともう一人の参加者は、驚いたように目を丸くしていました。
普通なら、この後にマネージャーが苦労して修正の説得するのか、あるいは製品担当者の意見通り現状のままで進むのかのどちらかを想像するでしょう。なぜなら、この会議の中で、誰も説得も議論も一切行っておらず、ただ、こちらから依頼し、相手がそれを断る、ということが5回繰り返されただけだからです。
しかし、コミュニケーションの本質を分かっている人にとっては、これは当たり前のことが起こったに過ぎません。
たとえば相手の方の意見が「No」であっても、誰かその「No」を受け取ってくれる人がいれば、そして相手が自分の中の「No」を100%言い切れた時――すなわち「陰極まれば陽となる」の言葉通り、新しい自分らしい「Yes」が相手の中から出てくることがあります。
相手は、私の提案に無理やり従ったのではありません。すべてを言い切り、ニュートラルに判断できる状態になったからこそ、自分の中から「それがいい。」を主体的に選択したのです。
第3章:あなたの「やりたくない(No)」も、大切な一歩

このメカニズムは、日常生活やキャリアに悩む大人のADHD・HSPの方にとっても全く同じことが言えます。
特性による生きづらさを抱えている時、多くの人は「〜しなければならない。」という義務感で頭がいっぱいになっています。その結果、「本当はどうしたいのか。」という自分のYesが見えなくなってしまうのです。
そんな時に必要なのは、無理に前を向くことではなく、自分の中にある「これは嫌だ。」「やりたくない。」「しんどい。」という「No」の感情に蓋をせず、言葉にして外に出すことです。
もちろん、それを家庭や職場でそのままぶつけるのは難しいかもしれません。だからこそ、まずはコミュニケーションの専門家(コーチ)を頼ってほしいのです。
プロのコーチは、あなたの「No」を否定せず、説得もせず、100%丸ごと受け取る場を創ります。「No」をすべて聴き切ってもらうことで、初めてあなたの心はニュートラルな状態に戻ります。接着剤のように固まっていた義務感から解放され、「じゃあ、自分は本当はどうしたいのか。」という、あなた自身の「Yes(意図する未来)」が自然と内側から湧き上がってくるようになるのです。
まとめ:まずは「話を聴いてくれる専門家」に話すことから
違いを創るのに、大きいも小さいもない。これは私が一貫して大切にしている信念です。
大きな目標がなくても、何から始めていいか分からなくても、全く問題ありません。
まずは今のモヤモヤや、心の中にある「No」を、そのまま専門家に話してみる。その行動自体が、あなたが意図する未来へとシフトするための「最初の小さな違い」になるのです。
あなたらしい未来への一歩を、ここから一緒に始めてみませんか。


